第四章 今日子の夢と迷い
R30施術を夫と共に受けて、二人揃って若い心と体で、世界の七不思議を廻るミステリーツアー参加が憧れだった。それで、夫に何度か隣りの直さんご夫婦の例を挙げ、施術を促してもみた。しかし、夫の選択は変わらなかった。
「直さんはよく思い切って施術を受けたものだ。まだまだ働くなんて俺には無理やわ。もう孫とのんびり暮らしたい。」と言って、夫の施術適齢期が終わった。
では、私一人でも受けてみようか?と考えてもみる。
佳子お姉ちゃんの若返った姿を思い出す度、自分も挑戦したくなる。若々しいつや肌に戻る。軽やかな身のこなし。もう何がしたいとかも関係なく、若い体は素敵だ。
誰かが喜んでくれるからではなく、自分が大喜びするに違いないとも考える。
しかし、私だけ受けてみるとして入院中に高齢の父や母が亡くなる可能性もある。夫だって、70過ぎて何があるか分からないし、佳子のところとは違って応援してやるとは言ってくれない。そんな夫に施術後の5年間に苦労をかけることが躊躇われて施術を私だけ受けるとは言いにくかった。私は正社員の仕事もパートの仕事も子育ても経験させてもらったし、欲張りすぎているのかな?と鏡に向かって問うてみる。そこには、目の下のたるみが目立つ60過ぎのしおれかけた姿があった。
佳子お姉ちゃんも、お隣の直さんも、見違えるほど若くなった。その二つの家庭には夫婦間で施術応援ムードがあった。佳子の両親も、佳子の夫の両親もすでに他界してしまっていたから思い切れたよねとも思う。
あらためて、私は、若返って何がしたかった?と自問する。
若返った夫と共にミステリーツアーに行く。今のままでも、休暇をとって、大半の貯金を叩けばミステリーツアーの参加は可能だけど。若い心と体で行きたい。
かつて、夫の会社の退職前に参加した夫婦揃って参加が条件のオーストラリア旅行を思い出す。さんご礁の海底をダイビングするオプショナルツアーのチャンスがあったにも拘わらず、夫は年齢を理由にいやだと言ってダイビングに参加をしなかった。私も一人では参加する勇気が萎んで楽しみも萎んだ。
すでに、夫のR30施術期限は終わっている。自分だけでも受けようか、一人でスキューバーダイビングを楽しむ勇気がなかったのに? 一人では楽しめないな。いや、一人ではない。すでに若返った佳子やお隣のふみえ夫妻がいる。他にも友達で若返りを選択した人があるかもしれない。そんな人を誘えば楽しめるかも。そう考えると、R30施術を受けて若返った生活を楽しんでみたくなった。 昌君に、施術後の5年間についてお願いしてみよう。